Alto Novels
-6畳半の図書館-
『女性が自殺、同居人の男性が行方不明
先日、―――州の民家で女性が自殺しているのが見つかった。身元は、その家に住む
ミーシャさん(23)と判明。
また、その家に住んでいる男性、
―――さんが行方不明となっている事が、
家族からの情報により判明。
外出した形跡がないため、家の中にいるとされるが家中に鍵がかかっており、捜索は難航している。』
『行方不明の男性、捜索断念
先日、―――州の民家で女性の自殺死体が
発見され―――の男性が行方不明に
なっている――について、行方不明の男性の捜索―――された。と言うのも、捜索中に不慮の事故が立て続けに起こり
捜索を――せざるを得なくなったという事だ。』
新聞の切り抜きは、所々掠れていて読むことができなかったが、内容を理解するのに支障をきたすほどではなかった。日付を確認すると、二十年前のものだった。
「何が入ってたんだ?」
アレンが、私の手元を覗き込んで訪ねた。
「二十年前の新聞の切れ端。ここに住んでた女の人が自殺しちゃったって記事。それに、一緒に住んでた男の人が、行方不明になっちゃったんだって」
私はアレンに、記事の内容を事細かに説明した。
「誰にも見付けてもらえないなんて、寂しいよ……」
その男の人は、もうこの世にいないかもしれない。それでも、その人の遺体は二十年もここに独りで取り残されているのだから。
「……ああ、きっと寂しいよ。あんたに見付けてもらえたら、きっとソイツも嬉しいだろうな」
アレンが、寂しそうに笑う。
「そうかしら?でも、見付けるって言っても、どこを探せば……」
アレンは、私の鞄を指さした。
「さっき直した、折れちゃった鍵は?」
「え……?」
「ここの家の鍵、もうほとんど開けてきたんだろ?もうだいたい、どこの扉の鍵か察しはついてるだろう?」
彼の言葉で、予想は確信に変わった。
「うん、そうね……これまで色々な部屋に行ってきたの。でも、どの部屋にもいなかったから……きっと、彼はそこにいる」
見付けてあげなければいけない……なぜか、そう思った。
「協力、してくれる?」
私の問いに、アレンは笑顔で答えてくれた。
「もちろん。言ったろ?アンタを守るって」
「アレン……ありがとう」
彼のその言葉が、素直に嬉しかった。
二階、書斎向かいのまだ開いていない扉。この家の扉で唯一開いていない扉。そして、手元にある鍵は一つだけ。彼は、ここに眠っているんだと確信があった。
緊張してか、手が震えて上手く鍵が鍵穴に入らない。
「俺がやろうか?」
アレンの申し出に、首を振って答える。深呼吸を一つして鍵穴に鍵を入れる。ゆっくりと回すと、鍵が開く音がした。扉を開けると、こもっていた腐臭が漂ってきた。口と鼻を覆い、部屋に入る。どこにでもある普通の男の人の部屋だった。部屋の真ん中に佇む、一つの白骨死体を除いては。
「見付けた……」
「…………ああ」
二十年の間誰にも見付けてもらえずに、この部屋に閉じ込められていた、悲しい男の人の亡骸。その遺体の傍に、数枚の紙切れが落ちていた。拾ってみると、破かれた日記だった。
『一月一三日
彼は、私と住むことに賛成してくれた。
一緒に住めて、今はとっても幸せ!
これからも、こんな幸せが続きますように!』
『三月二四日
彼が、他の女と仲良くしていた。
彼に触らないで!彼は私の物なの!』
『五月一九日
何度言っても、彼は分かってくれない。
何で?私は、こんなに貴方の事を愛していて……
貴方だって同じはずでしょう?』
『七月三〇日
彼がここを出ていこうとするから、玄関の鍵を特殊なものに変えた。
一階の窓も全部壁に埋め込んで、彼の部屋の窓も同じ様に……』
『一〇月八日
貴方がいけないのよ。
貴方が私を拒絶するから……
でも、これで貴方はこの家から出ていってしまう心配もない。
貴方の眠る部屋の鍵は、折っちゃった。
これで、貴方に近付けく人はいなくなる。
でも大丈夫、独りにはさせないよ。
私もすぐに逝くから。』