Alto Novels
-6畳半の図書館-
日記の内容から、私が書斎で見付けた日記の途中だという事が分かった。そしてこれが、この家で起きたすべてだという事も。
アレンに日記を見せようとして、日記の断片を拾った時だった。読んでいて気付かなかったのか、手に持った日記の束から、一枚の写真が滑り落ちた。
「これ……」
そこには、楽しそうに笑う男女二人が写っていた。女の人の方は、特徴から私を追いかけてきた、あの化け物だという事が分かった。生きていた頃は、こんなにも綺麗だったのかと思った。そして、その隣に写っている男の人に、私の視線は釘付けになった。そこには、今も私の目の前に佇んでいるアレンが写っていた。
「アレン……貴方……」
「……ん?」
次の言葉は、自然と口から出ていた。
「寂しかったよね……」
「……え」
彼は、意外そうな顔をした。私だってそうだ。未だに、これは何かのどっきりだと思いたかった。でも、私は心のどこかで気付いていたのかもしれない。
「この白骨死体……アレンなのよね……?」
「…………」
アレンはしばらく黙っていたが、やがて観念したかのように口を開く。
「なんだ、知ってたのか?」
「今知った。でも、本当はもっと前から気付いてたのかもしれない……ここにアレンが来た時点でおかしいもの」
この時の私は、自分でもびっくりするほど冷静でいられた。
「そう、だよな……さすがに、あの嘘は無理があったか……」
「あの時は、騙されちゃったけどね……ねぇ、アレン……私を、地下の倉庫に閉じ込めたのって、貴方なの?」
アレンは、首を縦に振って肯定する。
「アイツも、鍵がかかってる扉までは入れないから、いったんアンタを閉じ込めて、頃合いを見てからここから出してやろうと思ったんだ。でも、アンタは何でかあそこから出ちゃってるし、アンタが落とした玄関の鍵をアイツが拾って、玄関に鍵かけるし……」
「そっか……ごめん、守ってくれてたんだね……」
申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「いいよ、謝らなくても。何も言われずに、あんな暗い所に閉じ込められる……よくよく考えたら、そっちの方が怖いわな……」
アレンは、不安そうな顔をして私に向き直った。
「怒ってる、か……?当たり前だよな……これを見付けさせるために、アンタを利用した……そう思われても仕方ない」
「アレンは、私を利用してたの?」
「アンタなら俺を見付けてくれるかもって、期待してなかったって言ったら嘘になる。でも、それ以上に俺は……!」
私は、アレンの言葉を手で制して遮った
「待って!疑ってるわけじゃないの……その言葉だけ聞ければ、十分よ……」
今まで見てきた彼が、すべて偽りのものだとはとても思えなかった。
「ねえ、アレ―――」
―――バンッ!
彼に言葉をかけようとしたちょうどその時、扉が勢いよく開いた。
「っ!?」
扉の前に、あの化け物……ミーシャさんが立っていた。段々と、こっちににじり寄ってくる。
「クソッ……」
私を背中に庇うように、アレンが前に立った。
「ミーシャ!もうやめてくれ!」
アレンの言葉にも聞く耳を持たない。ゆっくりと、しかし確かな足取りでこっちに近付いてくる彼女の、黒くぽっかりと空いた目から、視線が外せなくなった。
「あ……アレン……」
「大丈夫、守ってやるから……俺の後ろから離れるなよ?」
「う、うん……」
足の震えが止まらない。ついに、彼女は私達の目の前に迫ってきていた。
「ミーシャ、ユーリカにだけは手を出すな!」
アレンの剣幕に、彼女の足が一瞬止まった。
―――ど う し て
彼女の口がそう動き、彼女から漏れるうめき声もそう聞こえたような気がした。
「え……っうわ!?」
アレンが、ミーシャさんに吹き飛ばされた。
「アレン!!」
慌てて駆け寄ろうとするが、それよりも先に彼女の手が私の首にのばされる。
「っ……くっ……ぁ……」
物凄い力で首を締め上げられ、足が床から浮き上がった。私の力では、振り払う事ができない。
「ユーリカ!!」
―――ア レ ン を 奪 う 奴 ら
は い ら な い
ミーシャさんの声が、はっきりと聞こえた。
苦しくて、段々と頭の中がボーっとしてきた。私は、死を覚悟した。諦めて、目をつむった時だった。急に首を締め上げていた手が離れ、床に落とされる。肺に、空気が流れ込んできて、せき込む。
何があったのか、ミーシャさんの方を見てみると、彼女の首に深々とナイフを突き立てているアレンがいた。