Alto Novels
-6畳半の図書館-
「そんなことが……」
「馬鹿馬鹿しいよね……笑ってもいいのよ?」
でも、彼は笑わなかった。それどころか、再び私を抱きしめてくれる。
「ここは幽霊屋敷。何がいてもおかしくないだろ?それ以前に、アンタのその顔が冗談とも思えない」
とても優しい声色が心地よかった。
「大丈夫。ここからは俺が付いてるから、な?」
「うん……ありがと、アレン」
「ん。泣かなくて平気か?」
「泣きたいよ?でも、泣いてても何も進まないから……泣くのは、ここを出たら」
恐怖心は、段々と小さくなっていく。ここから出るんだ、アレンと一緒に。
「んじゃ、頑張るぞ!立てるか?」
立ち上がり、私の手を引いて立たせてくれる。
「うん、大丈夫」
「お望みなら、このまま手を繋いでやっててもいいけど?」
「心配しなくても大丈夫よ!」
アレンの手を離す。
「そっか。ちょっと残念だな……」
「ん?何か言った?」
「なんでもない。って言うかさ、お前何であんなところにいたんだ?」
アレンのその言葉で、今まで頭から抜けていたことを思い出した。二階の寝室にある、枕の事だ。
「ここの寝室の枕に鍵が入ってるみたいなんだけど、取り出すところがなくて……裂いて取り出そうかなと」
「ああ、だからカッターなんて持ってたのか。んじゃ、二階だな?」
二人で二階へと上がる。一人増えただけでこんなにも心強いんだと感じた。
寝室にあった例の枕を裂くと、案の定鍵が出てきた。タグには「リビングルーム」と書いてあった。
「これも、違うのか……」
「まあ、そう落ち込むなよ。開いてない部屋は、あと二つなんだろ?しかも、そのうちの一つはぽっきり折れてるとはいえ、見付かってるわけなんだからさ。ゴールが見えてないわけじゃない」
「うん……そうよね」
ガックリしてもいられない。一歩進んだと思えば、ここから出られる糸口が見つかったんだと思えば、多少気が楽になる。
一階に戻り、鍵を開ける。何の変哲もない、一般家庭のリビング。埃と蜘蛛の巣さえなければ、だけど。扉のない出入り口はキッチンに繋がっていた。もう一つ扉があったが、トイレと浴室があるのみで特に目ぼしい物は見当たらない。
「あ、おいこれ!」
アレンが戸棚取り出したのは、作りかけのボトルシップと、それを作るのに使われていたらしい道具がそろっていた。その中に、接着剤もあった。
「これで、鍵をくっつけられないか?」
「分かった。ちょっとやってみるね」
アレンから接着剤を受け取り、折れてしまっている鍵をくっつけた。くっつけただけだからすぐに壊れてしまうけど、一回使うだけなら問題はないだろう。
「接着剤が乾くまで、しばらく使えるものがないか見て回ろうか?化け物がうろついてるかもしれないんだ。武器になる奴を探そうぜ?」
「うん、そうね」
私の返事を聞くと、アレンはさっきの棚を再び調べ始める。私も手近な棚を調べるが、何も見付けられなかった。ふと、視線をリビングテーブルの上にやると、ノートパソコンが一台置いてあった。電源ボタンを押すが、もちろんの事電源はつかない。画面の隅に、『‘($%#$』と書かれた付箋が貼り付けてあった。
「おい、ユーリカ」
私を呼ぶアレンの方を見ると、彼は部屋の隅に置いてある金庫を開けようとしていた。
「この金庫、どうにかして開けられないか?」
「丈夫そうだから、壊して開けるのは無理かも……」
「やっぱり、ちゃんと数字を探さないとダメか……なあ、そっちは何か見付けなかったか?」
「う~ん……関係ないかもしれないけど……」
さっき見付けたパソコンに貼られた付箋の事を、アレンに話してみる。
「案外、それが金庫を開けるダイヤルの数字だったりしてな」
「まさか……こんな意味不明な文字……」
「その文字が書いてある付箋が貼ってあったのは、このパソコンだろ?」
そう言ってアレンは、数個のキーボードを叩く。
「パソコンに貼ってあった……それが、大ヒントなんじゃないか?」
「パソコンに貼ってあった事が……?」
訳が分からず、パソコンを見つめる。ふと、1~0の数字が書かれたキーに目が留まった。
「……あ」
「俺の言ってること、理解した?」
「うん……付箋に書かれてたのは、数字と一緒に書かれてる記号、だよね?」
「ああ。最初の『‘』は『7』だな」
その他の記号の、それぞれ対応した数字を当てはめていくと『784534』という羅列が浮かび上がってきた。それを金庫のダイヤルに入力すると、カチャリと音を立ててロックが外れた。中に、新聞の切り抜き二枚が入っていた。