Alto Novels
-6畳半の図書館-
「先生!起きてますか、先生!編集長からの伝言です!」
昨日と同じようなノック音で目が覚める。こんな朝早くに……そう思って時計を見るが、十時を示している。どうやらお昼近くまで眠ってしまったようだ。
ベットから出て、ノックの主を出迎えに行く。
「ああ、先生!昨日の事をお話したらですね……この手紙と鍵を、ユーリカ先生に渡すようにって……」
と、ただ折っただけの紙切れと、どこかの家の玄関か何かの鍵を渡された。
「なんて書いてあるの?」
「さあ?他人宛ての手紙を勝手に読むなんて真似しませんよ、僕は」
それから彼は、他に担当している作家の所に用があるからと、すぐに出ていってしまった。今私の手にある手紙と鍵。明らかに面倒くさい事が書いてあるのは間違いないが、読まずに捨ててしまっても後から面倒くさい事になる。紙を開くと、簡易的だが分かりやすく書かれた地図と、短い文が殴り書きされていた。
『ネタがないなら自分で見付けにいけ。
許可はもらってる。今日すぐにだ』
ああやっぱり、と思った。取材ならいかないと、いつも言っているのに……
無視してしまおうか……しかし、原稿はいまだに真っ白。いくら書く気が失せているとはいえ、このままではどうにもならない……ここは、編集長のお節介に甘えさせてもらおうか。書いてある地図には、覚えのある建物の名前がある。どうやら近所のようだ。
「仕方ない、か……」
色々と準備をして、部屋を出る。地図を見ながら、道を歩いていく。いつも使っているコンビニエンスストア、よくお話をするおばさんが住んでいる家の前を通り、細い路地に入る。ここに住み始めて結構立つが、まだ知らない所があったのか。そう思いながら歩いていくと、一軒の古ぼけた家が建っていた。人の住んでいる気配のない家。
「もしかして……ここ?」
書いてある地図は、間違いなくここを示している。気付くべきだったのだ、鍵を渡された時点で。人が住んでいる家だったら、鍵なんて渡してこないだろう。
「そういえば、『幽霊屋敷の噂』……なんて、あったよね」
たまに、公園で遊んでいる子供たちが噂している。『幽霊屋敷の窓から人が顔を覗かせていた』とか、『幽霊屋敷から人が出ていくところを見た』とか。
ああ、ここだ……頭の中で、そう確信していた。違うかもしれない、と思おうとしても。
「ホラー小説は、書かないんだけどな~……」
しかし、そんな事を言っている暇はない。メモには許可は貰っていると書いてあったし、不法侵入にはならないだろう。錆びた門に手をかけて引くと、嫌な音を立てて開いた。木製の古びた扉の前に立ち、鍵穴に渡された鍵を入れて回すと、ガチャリと鍵が回った。ノブに手をかけて扉を開けると、生暖かい空気が埃と共に流れ出してくる。
「埃っぽい……」
重い足を進めると、床板がきしむ。扉を閉めると、より一層埃っぽさを強く感じる。広々とした玄関。
とりあえず目についた部屋のノブに手をかけるが、回らない。ノブには鍵穴が付いている。鍵がかかっているらしい。
「どうしようか……」
渡されたのは、玄関の鍵のみ。他には何も渡されていない。帰ってしまおうか、そう考えた時に階段が目に入った。下りの階段と上りの階段。上りの階段の奥は昼間だというのに薄暗く、下りの階段には扉がある。
こうなると、好奇心が先に出てくるのは作家の悲しい性か。先に、下りの階段から見てしまおう。階段を下り、扉のノブを掴むと異常に冷たかった。きしむ扉を開けると、その先はまだ階段が続いているだけで、真っ暗で何も見えない。
「ええと……携帯携帯……」
鞄を探り、携帯電話をライト代わりに使おうと取り出した時だった……
「っあぁ!」