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  どのくらい経っただろう。気付けば、窓の外は茜色に染まっていた。

 

  「あ……もうこんな時間……」

 

  ふと、私はある事を思い出し、急いで部屋を飛び出す。

  夕暮れの街は、帰路に着く学生と、あそびから帰ってきた子供達がたまに通りかかるだけで、他は私の足音が響いているだけだった。そんな街にある公園、すぐにベンチに座っているその人は見つかった。

 

  「アレン!」

 

  名前を呼ぶと、顔を上げ私の方を見て微笑み、手を振る。

 

  「ユーリカ!遅かったな」

 

  私も、彼の隣に腰かける。彼の顔を見ると、今まであった事も今日あった事も、すべて忘れることができる。

 

  「仕事で、またなんかあったのか?最近、ここに来ることが少なくなってるけど」

  「それがね、また一から書かなくちゃいけなくなって……」

  「はぁ!?なんだそれ……この前書いたやつは?」

  「……面白くないって、突き返されちゃったって、担当君が」

 

  アレンは、軽く舌打ちをして、私の方に向き直る。

 

  「そんなことがあったからって、へこたれんなよ!俺、あのプロット読んだけどスゲー面白かった!分かる奴には分かるんだよ!」

  「うん、ありがとう……」

  「何かあったら、ここに来いよ?愚痴でも恨み言でも、なんでも聞いてやるから!」

 

  いったいこのやり取りはいつからだろうか。初めてアレンと会ったのは、一年くらい前。作家としてまったく売れなくて、どうしていいか分からなくてこの公園で泣いていた時。それから励まされて、明日も会おうと約束して……なんだかんだで毎日会って……

 

  「そういえば、アレンはどこに住んでるの?」

 

  そんな長い間一緒に過ごしていたにもかかわらず、彼の事は全然知らなかった。

 

  「あ?すぐ近所」

  「その割には、この公園以外であった事ないけど……」

  「まあ、ここ以外そんな行ってないし」

  「もしかしてアレン、無職なの……?」

 

  そう問いかけると、アレンは苦い顔をして答える。

 

  「おいおい、俺だってちゃんと仕事くらいしてるんだぜ?」

  「何やってるの?」

  「ヒ・ミ・ツ♪」

  「それ、ズルくない?私は何やってるかとか、仕事の内容とか……挙句の果てには、書いてる小説の内容まで教えてるのに……」

  「それは、お前が勝手に俺に話してんだろ?俺は、教えてくれなんて一言も言ってないけどな?」

  「ひどい!」

 

  ムスッとした顔でアレンから顔をそらすと、彼は申し訳なさそうに肩に手を置いた。

 

  「悪かったからこっち向けって……な?」

  「……じゃあ、何やってるかくらいは教えてよ」

  「あー、はいはい。でも、また今度な」

  「え~!?何で!?」

 

  勢いよく彼に向き直ったが、至って彼は冷静に空を指さして答える。

 

  「見ろよ、空。もうすぐ日が暮れる」

  「え……あっ」

 

  そう言われて見れば、空は茜色から藍色へと変わり始めていた。時計を見ると、もうすぐで七時になるところだった。

  「もう少し話したいけどよ、さすがにもうヤバいだろ」

  「本当だ……何かごめんね?こんな時間まで引き留めて」

  「いや、いいよ。それより、ひとりで帰れるか?真っ暗になってくるけど」

  「子ども扱いしないでよ!私ももうアラサ―よ?夜道くらい一人で帰れるから!そもそもアレン、私より年下よね?アレンこそ気を付けてね?」

  「いや、そういう意味じゃないんだけどな……」

 

  ぼそぼそと何か言っていたが、よく聞き取れない。聞き返すと、なんでもないとはぐらかされてしまう。

 

  「じゃあ、また……明日も、ここで待ってる。まあ、来れないようなら無理すんな」

 

  彼は立ち上がり、私の手を引いて私も立たせる。私の手を掴んだ手は、ひやりとしていた。

 

  「うん、仕事が無かったら来るね。じゃあ、また」

 

  彼に背を向け、公園を出る。彼と会っている間は、現実を忘れてしまえるほどに楽しい。でも、一歩公園から出ると、一気に現実へと引き戻されてしまう。真っ暗な自分の部屋に電気をつけ、閉じたパソコンを開き、真っ白な原稿へと向かうと、さっきまでのアレンとの会話がすべて夢だったんじゃないかと思ってしまう。

  帰ってきてから数時間、パソコンに向かい続けているが依然として原稿は真っ白で……

 

  「今日も、何も思いつきそうにないわね……」

 

  時計は、もうすぐで明日になると知らせている。時間を意識すると、自然と眠気は襲ってくるもので。パソコンを閉じ、電気を消してベッドにもぐりこむ。

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